なぜ卵は常温で売る国と冷蔵で売る国があるのか?洗卵処理と衛生基準の違い
 
										スーパーで卵を買うと、日本では冷蔵コーナーに並んでいます。
しかし、海外旅行に行くと卵が常温棚に置かれているのを見て驚く人も多いはず。
同じ「卵」なのに、なぜ扱い方がこんなにも違うのでしょうか?
実はこの違い、卵を「洗うかどうか」という処理工程が深く関係しているのです。
日本は「洗う国」──衛生的だけど要冷蔵になる
日本では、卵を出荷する前に徹底的に洗浄・殺菌します。
これを「洗卵(せんらん)」と呼び、
- 洗浄機で表面の汚れを落とす
- 次亜塩素酸などで殺菌
- 乾燥機で水分を完全に飛ばす
 という工程を経て出荷されます。
このおかげで、卵の殻の表面は非常に清潔。
サルモネラ菌などの食中毒菌が付着するリスクを大幅に減らせます。
ただし、この洗浄により卵の表面にある「クチクラ層」という天然の保護膜が失われます。
クチクラ層は殻の微細な穴(気孔)をふさぎ、雑菌や水分の侵入を防ぐ役割を持っています。
つまり、
洗って清潔に → 保護膜がなくなる → 外気中の菌や湿気に弱くなる
このため、日本の卵は冷蔵保存が必須になっているのです。
欧米は「洗わない国」──自然のバリアを生かす
一方、アメリカやヨーロッパなどでは、
卵を基本的に洗浄しません(もしくは軽い拭き取り程度)。
その代わりに、
- 鶏舎の衛生管理を徹底(糞便や泥が卵に付かない環境)
- 出荷後は常温でも安全なように早期流通
- 消費期限を短く設定
といった方法で安全性を確保しています。
この場合、卵のクチクラ層が intact(無傷)のまま残るため、
自然の防御機能で雑菌の侵入を防げるのです。
結果、常温保存でも数週間は品質を保てるため、
スーパーでは常温陳列が一般的になっています。
日本と欧米の保存環境の違い
| 項目 | 日本 | 欧米(EU・米国など) | 
|---|---|---|
| 出荷前処理 | 洗卵・殺菌 | 洗わない(自然のまま) | 
| クチクラ層 | 除去される | 保持される | 
| 主な保存方法 | 冷蔵保存(10℃以下) | 常温保存(15〜25℃) | 
| 危険要因 | 外部菌の侵入 | 表面汚染のリスク | 
| 安全対策の焦点 | 出荷後の管理 | 飼育環境の衛生維持 | 
つまり、
日本は「出荷後に守る」、
欧米は「出荷前に汚れないようにする」、
という安全管理の発想の違いがあるのです。
アメリカでも「冷蔵卵」が主流な理由
例外的に、アメリカでは卵を軽く洗浄する国でもあります。
そのため、EUのような常温保存ではなく、
日本と同じく冷蔵流通を義務化しています。
米国農務省(USDA)は
「一度冷やした卵は、再び常温に戻すと結露により菌が侵入しやすくなる」
と警告しています。
このため、アメリカでもスーパーでは冷蔵陳列が標準となっているのです。
「生食文化」も冷蔵販売の理由のひとつ
日本では卵かけご飯やすき焼きなど、生で食べる文化があります。
そのため、サルモネラ菌を防ぐ目的で、
「洗浄・冷蔵」を徹底した上で出荷する必要があるのです。
一方、欧米では卵は加熱して食べるのが前提。
そのため、多少の菌が残っていても問題になりにくく、
常温保存でも衛生上のリスクが低いのです。
まとめ:どちらも正解、前提条件が違うだけ
卵の販売温度が国によって違うのは、
- 日本:洗卵で清潔に → 保護膜がなくなる → 冷蔵が必要
- 欧州:洗わず自然のまま → クチクラが残る → 常温でも安全
- 米国:軽く洗浄 → 冷蔵が義務化
 という衛生管理方針の違いによるものです。
つまり、常温か冷蔵かは「安全意識の差」ではなく、
管理方式の違いが生んだ文化的選択なのです。

 
																											 
																											 
																											 
																											 
																											