なぜ駅のホームは“黄色い線の内側”なのか?安全域の算定と設計基準を解説
 
										駅のホームで必ず聞く、「黄色い線の内側にお下がりください」というアナウンス。
誰もが知るフレーズですが、なぜ“黄色い線”が基準になっているのか考えたことはありますか?
実はこの線は、列車の安全な通過距離を正確に計算して設けられた「安全域の境界」なのです。
この記事では、黄色い線の位置が決められる仕組みと、その背後にある安全設計の考え方を解説します。
黄色い線は「列車との安全距離」を示すライン
ホームの黄色い線は正式には「内方線(ないほうせん)」と呼ばれ、
列車が通過・停車する際に乗客が接触しないための最小安全距離を確保するために引かれています。
この線は単なる“注意喚起のための装飾”ではなく、
鉄道会社が車両の幅・速度・風圧・通過時の揺れなどを総合的に計算して定めた「物理的な安全限界」です。
安全域はどう算定されるのか?基本は“車両限界+余裕距離”
鉄道のホーム設計では、まず「車両限界」という基準が存在します。
これは、列車の車体・ドア・ステップなどが走行中に占める最大範囲を示すもの。
その外側に、次のような安全余裕を加えて内方線の位置が決められます。
| 要素 | 内容 | 目的 | 
|---|---|---|
| 車両限界 | 車体の最大張り出し | 接触防止の基準 | 
| 揺動余裕 | 走行中の車体の揺れ幅 | 曲線区間での動きを考慮 | 
| 風圧余裕 | 通過列車による風圧 | 吸い込みや転倒防止 | 
| 作業余裕 | ホーム清掃・点検などの作業空間 | 作業員の安全確保 | 
これらをすべて足し合わせた結果、
列車の外側からおよそ50〜80cm程度内側に「黄色い線」が引かれるのが一般的です。
つまり、黄色い線の内側は“乗客が立っても安全な範囲”、
線の外側は“物理的に危険な領域”という明確な区別があるのです。
なぜ“黄色”なのか?視認性と心理効果
黄色が選ばれているのは、視認性が高く、注意を促す色だからです。
黄色は人間の目が最も敏感に感じ取る波長(約570〜590nm)の光であり、
夜間や暗いホームでも比較的目立ちやすい特徴があります。
また、黄色には「警告」「注意」といった心理的効果もあり、
道路標識や工事現場の安全ラインなどにも共通して使われています。
つまり、黄色い線は生理的にも心理的にも“危険を知らせる”最適な色なのです。
点字ブロックと一体化した“安全+バリアフリー”設計
現在の駅ホームでは、黄色い線の上に点字ブロック(視覚障がい者誘導用ブロック)が敷設されています。
この点字ブロックは1970年代に日本で開発されたもので、
「線の外に出ると危険」という情報を触覚で伝える役割を担っています。
さらに最近では、
- 点字ブロックの色をホーム床材と明確にコントラスト化
- 表面の突起形状を統一(日本産業規格 JIS T 9251)
- 音声案内やホームドアとの組み合わせ
など、バリアフリーと安全設計を両立した取り組みが進んでいます。
通過列車の風圧も考慮された位置設計
黄色い線の位置は、単に「接触防止距離」だけでなく、
通過列車が生み出す風圧(吸い込み現象)も考慮して決められています。
高速で走る列車の車体近くでは、気圧差によって空気が吸い込まれる力が働きます。
特に新幹線や特急列車が通過するホームでは、風速が秒速20〜30mに達することもあり、
バランスを崩したり衣服が引っ張られる危険があります。
そのため、黄色い線は風圧の影響を受けない範囲まで内側に設けられており、
駅ごとに列車速度・ホーム幅・乗降客数などを考慮して微調整されています。
まとめ:黄色い線は“設計された安全の境界線”
駅の「黄色い線の内側」というルールは、
- 列車の車両限界・揺れ・風圧を踏まえた安全域の算定
- 視認性の高い黄色による注意喚起
- 点字ブロックによるバリアフリー対応
 という複数の要素から成り立っています。
つまり、あの線は単なる目安ではなく、物理的にも心理的にも安全を守る設計線。
毎日何気なく立つその場所にも、緻密な安全計算と公共設計の哲学が込められているのです。

 
																											 
																											 
																											 
																											 
																											