なぜガソリンスタンドの床は“ザラザラ”なのか?耐油と防滑仕様の安全設計
ガソリンスタンドに入ると、床面がコンクリートのようにザラザラしていることに気づきます。
車が頻繁に出入りする場所なのに、ツルツルの舗装ではありません。
実はこの“ザラザラ”には、滑り防止と耐久性を両立するための精密な理由があります。
この記事では、ガソリンスタンドの床がザラザラしている理由を、防滑・耐油・法規制の視点から解説します。
理由①:油で滑らないようにする“防滑設計”
ガソリンスタンドでは、ガソリン・軽油・エンジンオイルなどの滑りやすい液体が日常的に床にこぼれる可能性があります。
もし床面が平滑なアスファルトやタイルであれば、
- 車両のタイヤが空転する
- 作業員や客が転倒する
といった事故が起きかねません。
そのため、床面には防滑加工(アンチスリップ処理)が施されています。
具体的には:
- 表面を粗く仕上げた刷毛引きコンクリート
- 砕石粉を混ぜて摩擦を高めるノンスリップモルタル
- 砂を吹き付けて凸凹を作るサンドブラスト仕上げ
などの方法が採用されています。
このザラザラした仕上げによって、水や油が浮いてもグリップが保たれるようになっているのです。
理由②:ガソリンや洗剤にも強い“耐油仕様”
通常のアスファルト舗装は、石油系溶剤で軟化・劣化します。
そのため、ガソリンスタンドではアスファルトではなく、耐油コンクリートやエポキシ樹脂仕上げが使われます。
これらの素材は:
- ガソリン・軽油・灯油による溶解を防ぐ
- タイヤ跡やオイル汚れに強い
- 冬場の融雪剤や洗剤にも耐える
といった化学的耐久性を備えています。
ただし、耐油塗装は表面が硬くツルツルしやすいため、
仕上げ段階であえて“微細な凹凸”を作り、滑りにくくする工夫が加えられています。
理由③:車両停止や急発進にも対応する“摩擦係数の確保”
ガソリンスタンドは、車が頻繁に停止・発進・旋回を繰り返す場所です。
このとき床面が滑りやすいと、タイヤがスリップして危険です。
そのため、設計基準上も一定以上の摩擦係数(μ値)が求められています。
たとえば、国交省の「自動車関連施設舗装指針」では、
ガソリンスタンド等の給油エリアは摩擦係数0.6以上を確保すること
といった目安が示されています。
ザラザラした床は、この摩擦を安定的に維持するための物理的グリップ層なのです。
理由④:雨天時や洗車水にも対応する“排水構造”
スタンドの床は常に水が使われる環境です。
洗車、散水、雨水、結露などで床面が濡れるため、水が溜まりにくい設計が不可欠です。
そのため、床には:
- 微妙な勾配(1/100〜1/150)を付けて排水溝へ誘導
- ザラザラ面で水膜を破り、滑りを軽減
といった構造が取り入れられています。
つまり、防滑性だけでなく、水処理性能の観点からもザラザラ仕上げが有効なのです。
理由⑤:法令・消防基準で「防滑性」が求められている
実は、ガソリンスタンドの床材は消防法とJIS規格で一定の安全性能が義務付けられています。
代表的な基準
- 消防法施工規則第28条:可燃性液体のこぼれ防止・排水設計の義務
- JIS A 1454「防滑性試験方法」:滑り抵抗値(BPN値)40以上推奨
- 日本石油協会指針:「耐油性・防滑性を兼ね備えた仕上げを行うこと」
つまり、ガソリンスタンドの床がザラザラしているのは、法律で求められた安全仕様でもあるのです。
理由⑥:日々の清掃・メンテナンスも前提とした構造
防滑加工は摩耗や汚れによって効果が低下するため、
定期的に高圧洗浄・再塗装・防滑再処理が行われます。
このメンテナンスを容易にするため、表面は:
- 水切れが良く、ブラシ洗浄が効きやすい凹凸形状
- 汚れが溜まりにくい微粒子パターン
に調整されています。
つまり「掃除しやすいザラザラ」でもあるのです。
まとめ:ザラザラ床は“すべての条件を満たす最適解”
ガソリンスタンドの床がザラザラしているのは、
- 油・水でも滑らない防滑性
- ガソリンに溶けない耐油性
- タイヤや人の動きに対応する摩擦係数
- 排水性・清掃性の確保
- 法令で定められた安全基準
という、機能と安全性を両立する総合設計の結果です。
見た目は地味ですが、あのザラザラした床は、
「滑らない・溶けない・壊れない」ための最終ライン。
毎日何百台もの車と人を支える、究極の安全設計の結晶なのです。
