なぜ鉄は“錆びる”のにアルミは錆びにくいのか?酸化被膜が生む決定的な違い
同じ金属なのに、鉄は錆びるのにアルミは錆びにくい——この差はどこから来るのでしょうか。
実はどちらも「酸化」している点では同じですが、その酸化の仕方とできる膜の性質がまったく違うのです。
この記事では、鉄とアルミの錆び方の違いを、化学反応・酸化被膜・環境耐性の観点から解説します。
理由①:どちらも“酸素と反応して酸化する”が結果が違う
まず前提として、鉄もアルミも空気中の酸素と反応して酸化します。
しかし、その結果できる物質の性質が大きく異なります。
| 金属 | 酸化してできるもの | 膜の性質 | 錆びの進行 |
|---|---|---|---|
| 鉄(Fe) | 酸化鉄(Fe₂O₃など) | もろく、はがれやすい | 内部まで進行する |
| アルミ(Al) | 酸化アルミニウム(Al₂O₃) | 硬く、密着性が高い | 表面で止まる |
つまり、錆びやすいかどうかは「酸化膜が金属を守るかどうか」で決まるのです。
理由②:鉄の“酸化膜”はもろく、内部まで錆びが進む
鉄が空気中で酸化すると、「酸化鉄(赤錆)」ができます。
この酸化鉄は:
- 多孔質でスカスカ
- 元の鉄にうまく密着しない
- 酸素や水を通してしまう
という性質があります。
そのため、表面に錆ができても防御膜にならず、むしろ酸素と水が内部まで入り込み、
錆びがどんどん進行していくのです。
→ 鉄の錆は「一度始まると止まらない腐食」。
放置すれば、やがて内部までボロボロになります。
理由③:アルミの“酸化膜”は緻密で防御力が高い
一方、アルミニウムが酸化すると、「酸化アルミニウム(Al₂O₃)」が瞬時に表面に生成します。
この膜は:
- 厚さわずか数ナノメートルでも非常に緻密
- 金属表面に強固に密着
- 酸素や水をほとんど通さない
という性質を持っています。
つまり、酸化は表面で止まり、それ以上は進行しない。
この現象を「不動態化(passivation)」と呼びます。
アルミは「錆びない金属」ではなく、“錆びてできた膜が金属を守る”金属なのです。
理由④:酸化膜の“透明性と強度”もアルミの利点
酸化アルミニウム(Al₂O₃)は無色透明で非常に硬く、
- 表面を保護しながら見た目を損なわない
- 研磨すると美しい金属光沢を保てる
- 表面処理(アルマイト)でさらに強化できる
という特徴があります。
このため、アルミは建材・飛行機・スマートフォン筐体などに広く使われています。
軽くて錆びにくく、美観も保てる理想的な金属です。
理由⑤:鉄は“水と酸素”が同時にあると急速に錆びる
鉄の錆(酸化鉄)は、水分があると特に速く進行します。
これは、水が電解質(イオンの通り道)として作用するためです。
- 鉄 → イオン化して電子を放出
- 酸素と水 → 電子を受け取って水酸化物に
- 両者が反応して酸化鉄(錆)を形成
つまり、雨・湿気・塩分などがあると、
電池のように反応が繰り返され、錆が止まらなくなるのです。
理由⑥:アルミの錆(白錆)は“表面止まり”で広がらない
アルミも条件によっては「白錆」と呼ばれる酸化物が発生します。
しかしこれは、
- 表面に限られており
- 内部への浸食はほぼ進まない
- 乾燥すれば反応が止まる
ため、鉄の赤錆のように構造的な損傷を与えることはありません。
むしろ白錆は一種の保護膜であり、「自然に自己修復する酸化皮膜」として機能します。
理由⑦:“不動態皮膜”を人工的に強化する技術も
アルミの防錆性をさらに高めるため、
人工的に酸化膜を厚くする「アルマイト処理(陽極酸化)」が行われます。
これにより:
- 酸化膜の厚みが数十倍に
- 耐摩耗性・耐食性が大幅アップ
- 着色も可能(電解染色)
こうした表面処理技術によって、アルミは「構造材+装飾材」として両立できるようになっています。
まとめ:鉄は“壊れる錆”、アルミは“守る錆”
鉄とアルミの錆びやすさの違いは、
- 酸化膜の構造
- 密着性と透過性
- 酸素・水の通りやすさ
にあります。
| 金属 | 錆びの性質 | 結果 |
|---|---|---|
| 鉄 | 酸化膜がもろく、内部に錆が進行 | 構造が劣化する |
| アルミ | 酸化膜が緻密で金属を保護 | 表面で反応が止まる |
つまり、アルミが錆びにくいのは「錆びないから」ではなく、
“錆びてもそれ以上腐食しない仕組み”を持っているからなのです。
