なぜ道路標識のフォントは“丸ゴシック”なのか?視認性の研究結果から読み解く理由
道路を運転していて、案内標識の文字が「読みやすいな」と感じたことはありませんか?
その文字には実は、フォント形状(書体)を通じて「見やすさ」を最大化するための工夫がこめられています。
この記事では、なぜ日本の一般道路の案内標識に“丸ゴシック”系フォントが多く使われているのか、視認性研究の観点から解説します。
理由①:ゴシック体(サンセリフ)が“視認性に優れている”
まず前提として、標識用フォントには「明朝体」ではなく「ゴシック体(線の太さが均一な無装飾書体)」が多用されます。
研究では、和文フォントについて「角ゴシック体系が視認性に最も優れていると言われている」ことが報告されています。 iatss.or.jp+2hido.or.jp+2
丸ゴシックもゴシック体の一種として、線の太さのばらつきが少なく、車速を出した状態からでも文字が読みやすい利点があります。
理由②:丸ゴシック(ラウンドサンセリフ)の“柔らかさ”と区別性
「丸ゴシック」とは、角が丸められたサンセリフ体(無装飾書体)のことを指します。 ウィキペディア+1
この丸みを帯びたデザインには次のようなメリットがあります:
- 線の終端(はね、はらい、角部)が丸く処理されているため、光の反射・路面からの映り込みなど視線条件が悪い状況でも“つぶれにくい”
- 遠方から・車速を出して見る状況でも、ひらがな・漢字・ローマ字が「まとまって見える」ため判読が速い
- 丸みが「目に優しく」読み取り疲れを軽減し、案内標識として認識しやすい雰囲気を備えている
理由③:一般道路では“丸ゴシック”、高速道路では“角ゴシック”の使い分けがなされている
実際、資料によれば日本の標識では利用される書体が道路種別によって異なっています。
例えば:
- 一般道路では和文に「丸ゴシック(ナール等)」を採用。 arc-nohara.co.jp+1
- 高速道路ではより文字サイズ・判読距離が重要なため「角ゴシック体系(旧:公団ゴシック/現在:ヒラギノ角ゴシックなど)」が使われています。 gazoo.com+2hido.or.jp+2
このように、書体の選定にあたって「走行速度」「視認距離」「背景色・文字色コントラスト」などが考慮されており、丸ゴシックが「一般道路の状況・視線条件」に合致しているため多用されていると言えます。
理由④:視認実験・比較研究で書体が“細部処理”で差が出るという結果
研究「より視認し易い高速道路案内標識を目指した標識レイアウトの…」によれば、ある4種類のフォント(ナウ、タイプバンク、新ゴ、ヒラギノ)を比較した結果、文字自体の大きさ・抜け(隙間)には大きな差が見られなかったものの、文字の「画やハネ」「コーナー部の処理」「字画間の構成比」といった細部の差が遠方からの視認性に大きく影響するという報告があります。 hido.or.jp+1
丸ゴシック系では、こうした細部の「先端部の欠け」「淵のしみ出し」を抑えるデザインがなされており、標識用途に適しているという知見があります。
理由⑤:丸ゴシックは“見慣れ・識別スピード”を向上させる
道路標識は、運転中に一瞬で文字を認識・理解しなければなりません。
丸ゴシックは、角が丸いため視野の端に入ってきた時も「視線を引き付けやすく」「字形が平滑に入ってくる」特徴があります。これにより、瞬間認識速度(判読までの時間)が短くなるという効果が期待されます。
また、ゴシック体+丸み=非装飾でありながら独特の識別性を出せるため、「道案内用書体」として使いやすいのです。
理由⑥:丸ゴシックは“視環境の変化”にも強い
標識は昼・夜・雨・逆光・高速走行と、様々な条件下で見られます。丸ゴシックの線・終端・空間比は、以下のような環境耐性を持ちます:
- 路面反射・太陽光の逆光などで文字の輪郭が視認しづらくなる際、丸みがあると「輪郭崩れ」が抑制される
- 夜間の反射材仕様では、丸い終端・均一な線幅が「反射光のちらつき」を軽減
- 高速で通過する状況において、文字が「まとまり」として捉えられやすく、遠目からでも大きな塊で見えるため判別が速い
理由⑦:フォント統一・管理のしやすさとも関係
視認性だけでなく、道路標識の大量製作・全国展開を考えると、書体の統一・管理も重要です。丸ゴシック系フォントは、線幅・角処理・空間比などが比較的揃いやすく、製作側で「ばらつき」が少ないというメリットもあります。
加えて、ユニバーサルデザインの観点からも「丸ゴシックは読みやすい」との評価があり、標識全体の統一性・ブランド性・メンテナンス性にも寄与しています。
まとめ:丸ゴシックが選ばれたのは“速度・距離・環境”を考えた実用書体だから
- 道路標識では、少ない時間で正確に文字を読み取る必要がある。
- ゴシック体(無装飾書体)は読み取り速度・識別性の観点で有利である。
- 丸ゴシック(角を丸めたゴシック体)は、視線移動の速い運転環境下でも輪郭崩れ・反射・逆光に強く、判読スピードを高める。
- 書体選定の研究では、細部の終端・コーナー処理などが視認性に影響することが確認されており、丸ゴシック系がその点でも優れている。
- また、製作・管理・統一性の面でも好まれており、一般道路で多く採用されている。
つまり、丸ゴシック書体が道路標識用に多く使われているのは、単なるデザインの好みではなく、「車速を出して通過する運転者が瞬時に文字を読めるか」という安全・実用性の観点から選ばれた最適な書体設計なのです。
