なぜかまぼこは“紅白”が基本なのか?色彩と祝祭の記号
おせちやお祝いの席で欠かせない「紅白かまぼこ」。
なぜこの色の組み合わせが定番となり、全国的に広まったのでしょうか。
そこには、保存食としての加工技術と、色が持つ“祝祭の記号”としての意味が深く結びついています。
かまぼこの原型は“白一色”だった
かまぼこの歴史は古く、平安時代の文献『類聚雑要抄』にはすでに登場しています。
当初は魚のすり身を竹の棒に巻きつけて焼いたもので、色は白一色でした。
白身魚(ハモ、グチ、タイなど)を使うため、自然と白く仕上がっていたのです。
つまり、現在のような“紅白の板かまぼこ”は、もともと白かまぼこからの発展形です。
“紅”が加わったのは江戸時代以降
紅白の組み合わせが定着したのは江戸時代。
当時、庶民の間で「紅白=祝いの色」という意識が広まり、
婚礼や年始の食卓に華やかさを添える目的で、紅色を表面に塗る習慣が生まれました。
この紅は、もともと天然の色素(紅花やエビの殻など)で着色されたもので、
視覚的にめでたさを演出するための工夫でした。
特に、白の“清浄さ”と紅の“生命力”を対にすることで、陰陽の調和や縁起の良さが象徴されていたのです。
紅白は“対の色”としての祝福の象徴
日本では古くから、紅白は対になる**「慶事の色」として定着しています。
白は神聖・純粋、紅は生命・血・太陽を意味し、この二色の組み合わせは「新しい命と清らかさの融合」**を象徴します。
神社の幕や餅、衣装、鯛の飾りつけなど、祝いの場面で紅白が多用されるのはそのためです。
かまぼこもこの文化的体系の中で、食卓における“紅白幕”の役割を果たすようになりました。
なぜ“白が下・紅が上”なのか
かまぼこを切ったとき、上が紅・下が白になっている理由にも意味があります。
紅には“陽”、白には“陰”の意味があり、紅を上にすることで上昇・発展・未来への祈りを表します。
また、皿に盛ったときに紅が目立つことで華やかさが増し、祝い膳としての見映えも良くなるのです。
食品加工の観点から見ても理にかなっている
かまぼこの紅色は、主に食紅やビート色素などでつけられています。
これらの色素は熱や塩分に強く、発色が安定しやすいため、加熱工程の多いかまぼこに最適でした。
また、白い部分を保つには新鮮な魚のすり身が不可欠で、
紅白かまぼこは結果的に品質の良さを可視化する指標にもなりました。
つまり、紅白の組み合わせは「見た目の美しさ」だけでなく、製品の信頼性を表す伝統デザインでもあるのです。
まとめ:紅白かまぼこは“文化と技術”の融合
かまぼこが紅白で定着した理由は、単なる色の好みではありません。
- 白身魚を原料にした清らかな白色
- 江戸期に加わった紅による祝いの象徴
- 紅白の陰陽思想と慶事の色彩文化
- 加工技術の発達で安定した発色が可能になった
こうして、紅白かまぼこは「味覚と視覚の両面で祝祭を演出する食品」として完成しました。
今でもおせち料理に欠かせないのは、色そのものが“幸福と調和の象徴”になっているからなのです。
