なぜ電源コードには“フェライトコア”が付いているのか?ノイズ除去と電磁干渉
パソコンやモニター、充電器などのコードの途中にある黒い円筒状の塊。
「これ何の意味があるの?」と思ったことはありませんか?
それは“フェライトコア”と呼ばれる部品で、電磁ノイズ(EMI)を防ぐための重要な装置です。
なぜコードに付けるだけでノイズが減るのか――そこには電磁誘導と高周波抑制の物理が隠されています。
フェライトコアとは何か
フェライトコア(ferrite core)は、鉄(Fe)を主成分とした酸化物を焼き固めた磁性セラミックの一種です。
見た目はただの黒い筒ですが、中身は磁力線を通しやすい特殊な素材でできています。
フェライトコアは電流そのものを遮断するわけではなく、
高周波のノイズ成分だけを弱めるフィルターのように働きます。
つまり、電力はそのまま流しながら、不要な“電磁波の揺らぎ”だけを吸収してくれるのです。
コードを流れる“目に見えないノイズ”
家電製品やパソコンの内部では、電子回路が高速で動作しています。
このとき発生する高周波ノイズは、電源コードや信号線を伝って外部に放射される電磁波として漏れ出します。
特にパソコンやモニター、ACアダプターなどはスイッチング電源を使っており、
オン・オフを高速で繰り返すため、数MHz〜数百MHzのノイズ成分が発生します。
これが他の機器に影響を与えると、
- Wi-FiやBluetoothの通信が乱れる
- オーディオに「ジー」というノイズが入る
- テレビ映像に干渉する
といった**電磁干渉(EMI:Electro-Magnetic Interference)**の原因になるのです。
フェライトコアは“高周波だけに抵抗を生む”
フェライトコアを通すと、コードの周囲に発生する磁界がフェライト内部で渦電流を生み出し、
高周波成分だけが熱エネルギーとして吸収されます。
一方で、低周波(50〜60Hz)の通常電力は影響を受けず、そのまま流れます。
つまりフェライトコアは、
高周波ノイズにだけ“抵抗”を生じさせる特性を持つ“選択的ダンパー”なのです。
このため、コードを何回も巻きつけてフェライトの内部を通す「チョークコイル構造」にすることで、
より効果的にノイズ成分を減衰させることができます。
なぜ“ケーブルの途中”に付いているのか
フェライトコアは、ノイズが発生または侵入しやすい場所に配置されます。
その代表が「機器の近く」――つまり、電源や信号が出入りするポイントです。
コードの途中(特に機器側の根元)にフェライトを付けるのは、
- 機器内部から外部へ漏れるノイズを防ぐ
- 外部のノイズが機器に侵入するのを防ぐ
という双方向のシールド効果を狙っているからです。
“片側だけ”についている理由
よく見ると、フェライトコアは片方のケーブルだけに付いていることが多いです。
これは、ノイズの発生源と方向が明確な場合、最も効率の良い場所にだけ取り付けるためです。
たとえば、
- PCモニターのケーブル:ノイズがモニター側から出るため、モニター側に装着
- ACアダプター:電源ノイズを外に出さないよう、アダプター側に装着
つまり、位置はノイズの流れに合わせて設計されているのです。
“取り外しても動く”が、ないと困る場合も
フェライトコアを外しても機器自体は動作しますが、
周囲の通信機器に干渉したり、規制基準を満たさなくなる場合があります。
各国には「電磁波障害に関する法規制(EMC規格)」があり、
メーカーはそれをクリアするためにフェライトを組み込んでいます。
つまり、見た目は地味でも、法的・技術的に必要な部品なのです。
まとめ:フェライトコアは“静かな環境”を守る盾
電源コードにフェライトコアが付いている理由を整理すると、次の通りです。
- コードを流れる高周波ノイズを吸収・減衰させる
- 電磁干渉(EMI)を防ぎ、周囲の機器を守る
- 機器内部の電源ノイズを外に漏らさない
- 外部のノイズを機器に侵入させない
- EMC法規制を満たすための必須パーツ
つまりフェライトコアは、電子機器の「静寂」を守る無言の盾。
目立たない存在ながら、現代のデジタル環境を支える最小のノイズガードなのです。
