なぜナスは「秋茄子は嫁に食わすな」と言われたのか？ことわざの真意と健康観

「秋茄子は嫁に食わすな」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。
“おいしいものを嫁に食べさせるな”という意地悪な意味にも聞こえますが、
本来はそうした意図ではありません。
このことわざには、季節の変化と体調管理に関する生活知恵が込められているのです。

「秋茄子はうまい」だからこそ生まれた言葉

ナスは夏野菜の代表ですが、実は秋に収穫されるナス（秋ナス）は味が濃く、実が締まって特においしいとされます。
昼夜の寒暖差によって甘みが増し、皮も柔らかくなるため、
昔から「秋茄子は嫁に食わすな」と言われるほどの“ごちそう”でした。

このため、最初の解釈としては「おいしい秋ナスを嫁に食べさせるのは惜しい」という姑の嫉妬説が広まりました。
しかし、実際にはそれよりも深い意味があると考えられています。

ナスは体を冷やす食べ物

ナスには水分が多く（約93％）、東洋医学では体を冷やす“陰性食品”とされています。
夏の暑い時期にはちょうどよいのですが、
気温が下がる秋に食べすぎると、内臓を冷やして体調を崩す原因になります。

昔の女性は冷えに敏感で、特に子どもを授かる前後の時期には体を温めることが大切とされていました。
そのため「嫁（＝若い女性）には秋ナスを食べさせるな」と戒めたのは、
体を思いやる健康の教えだったのです。

“秋ナス”と“種”に込められたもう一つの説

ナスは秋になると種が少なくなります。
そこから、「種がない＝子宝に恵まれない」という縁起を担いだ言葉としても使われました。
つまり、「秋ナスは子を宿す嫁にはふさわしくない」という、
子孫繁栄を願う家庭の配慮が背景にあったとする説もあります。

このように、「嫁に食わすな」という言い回しには、
実は“食べさせない”よりも“気を使う”という温かい意味が含まれていたのです。

まとめ

「秋茄子は嫁に食わすな」という言葉は、
体を冷やすナスを秋に控えるよう促す健康の知恵、
そして嫁の身を気づかう優しさを込めたことわざです。

意地悪な言葉のようでいて、実は思いやりの警句。
秋の味覚を通じて、昔の人々がいかに季節と体調の関係を理解していたかがわかる、
まさに“食の民俗学”が詰まった一言なのです。