なぜ青いバラは自然には存在しないのか?“青”を生み出せない遺伝子の壁
 
										「不可能」と言われてきた花――それが青いバラです。
情熱の赤、純粋の白、優雅なピンク……さまざまな色がある中で、自然界には“青いバラ”だけが存在しません。
なぜバラは青く咲けないのでしょうか?
この記事では、花の色素構造、遺伝子の限界、そして科学が挑戦した「青いバラ誕生の物語」をわかりやすく解説します。
花の色は“色素”で決まる
花の色を決めている主な要素は、植物が持つ色素分子(フラボノイド類)です。
その中でも代表的なのが「アントシアニン(anthocyanin)」という色素。
このアントシアニンは、化学構造とpHの違いによって色が変わります👇
| 色素の種類 | 主な色 | 含まれる花の例 | 
|---|---|---|
| シアニジン | 赤・ピンク | バラ・サクラ | 
| ペラルゴニジン | オレンジ~赤 | ゼラニウム | 
| デルフィニジン | 青・紫 | ツユクサ・デルフィニウム | 
バラの場合、この「デルフィニジン」を作る遺伝子が存在しません。
そのため、いくら交配しても青にはならないのです。
理由①:バラには“青色を作る遺伝子”がない
自然のバラは、「シアニジン」という赤系のアントシアニンしか作れません。
青色を生み出す「デルフィニジン」を生成するためには、特定の酵素(DFR遺伝子の特定タイプ)が必要ですが、
バラの遺伝子はこの酵素を持たない構造になっています。
つまり、バラの遺伝子構成そのものが“青を拒む”ようにできているのです。
理由②:pHバランスが青色に不利
花の細胞液のpH(酸性・アルカリ性)も色に影響します。
青系のアントシアニンはアルカリ性環境で安定しますが、
バラの細胞液はやや酸性寄りのため、青色が出にくくなっています。
同じアントシアニンでも、環境が違うと👇
- 酸性 → 赤っぽく見える
- 中性 → 紫
- アルカリ性 → 青
このため、青い花を作るには遺伝子だけでなく、細胞環境も整える必要があるのです。
理由③:自然界では“青”はまれな色
植物界全体でも、青い花は非常に少数派です。
これは、青を生み出す色素分子の構造が複雑で安定しにくいため。
多くの植物が「赤・黄・紫」で止まってしまい、
青まで進化させるのはエネルギー的に効率が悪いため、自然選択の中で淘汰されてきたと考えられています。
科学が挑戦した“青いバラ” ― 遺伝子組換えの挑戦
2004年、ついに日本の企業サントリーが遺伝子工学によって“青いバラ”を開発しました。
これは、デルフィニウム(青い花)から「デルフィニジン生成遺伝子」を取り入れた品種です。
しかし実際の花色は「青紫」に近く、純粋な青とは言えません。
それでも、「不可能」と言われた青色表現を実現したことから、
この品種には「Blue Rose Applause(拍手)」という名前が付けられました。
科学の限界 ― まだ“本当の青”には届かない
遺伝子組換えで青成分を導入できても、
- 細胞内pH
- 共存する他の色素
- 光の反射構造
などが複雑に絡み合い、鮮やかな“青”にはならないのが現状です。
つまり、バラを真っ青にするには、遺伝子構造そのものの再設計が必要になるのです。
まとめ:青いバラが示す“自然と科学の境界線”
青いバラが自然に存在しないのは、
- 青色を作る遺伝子(デルフィニジン合成系)が欠けている
- 細胞のpH環境が青色に適していない
- 自然進化の中で青は不安定な構造だった
という理由によるものです。
そして科学の力で“青”に近づけた今も、
私たちは改めて自然の仕組みの複雑さと美しさを知るのです。

 
																											 
																											 
																											 
																											 
																											