なぜカメラは“手ぶれ補正”で縦横に強いのか?角速度センサーと補正軸の仕組み
スマホでも一眼でも、いまや「手ぶれ補正」は当たり前の機能になりました。
特に縦揺れや横揺れに強く、シャッター速度が遅くてもブレにくい――。
しかし、なぜこの補正は“縦と横”の揺れに強いのでしょうか?
この記事では、カメラがどのように角速度センサーでぶれを検出し、補正軸で打ち消すのかを、物理的に解説します。
手ぶれとは何か?“角度の変化”として起きるブレ
手ぶれとは、撮影中にカメラが微妙に回転(角度変化)してしまうことによって、
画像がぶれて写る現象です。
例えば、人がカメラを構えているときには以下のような動きが自然に発生します。
- 上下方向(ピッチ軸)の回転
- 左右方向(ヨー軸)の回転
- 前後方向(ロール軸)の回転
このうち、最も目立ちやすいのが縦(ピッチ)と横(ヨー)方向の揺れです。
なぜなら、これらの動きは被写体全体がフレーム内でズレるように見えるため、
静止画では輪郭がにじみ、動画では酔いやすい映像になってしまいます。
角速度センサーが“ぶれの瞬間”を感知する
カメラの手ぶれ補正の心臓部は、ジャイロセンサー(角速度センサー)です。
このセンサーは、カメラがどの方向にどれくらいの速度で回転したか(=角速度)をリアルタイムで検出します。
たとえば、ヨー方向(横揺れ)に0.1度/秒の角速度が検出された場合、
センサーが瞬時にその情報をカメラ内部のプロセッサへ送信。
補正ユニットが「逆方向に同じ角度だけ動かす」よう制御します。
この“回転を逆回転で打ち消す”という考え方が、
縦・横方向のブレに非常に効果的なのです。
縦横に強い理由①:角度変化が最も明確に検出でき
縦と横のブレは、カメラ全体が回転するため、角速度センサーで数値化しやすい種類の動きです。
特に角速度の変化が連続的に発生するため、センサーが高精度に追従できます。
逆に、前後方向(ロール軸)のブレは、
レンズと撮像面がほぼ同軸上にあるため、画面全体のズレとして検出しにくいという特徴があります。
このため、多くのカメラでは縦・横方向を優先的に補正しています。
縦横に強い理由②:補正軸(ピッチ・ヨー)で直接制御できる
手ぶれ補正には大きく2つのタイプがあります。
| 種類 | 補正方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 光学式(OIS) | レンズまたは撮像素子を物理的に動かして補正 | 瞬時のブレに強い |
| 電子式(EIS) | 映像を解析してデジタル的に補正 | 動画で有効、滑らかな映像処理 |
光学式OISの場合、内部ユニットがモーターや磁気制御で
レンズユニットを上下(ピッチ軸)・左右(ヨー軸)に微調整します。
これにより、カメラが実際に動いた分だけ、
撮像素子上で被写体の位置を同じに保つことができるのです。
この「直接制御」が、縦横ブレへの強さにつながっています。
ロール方向(ねじれ)に弱い理由:補正構造の制約
一方、ロール(ねじれ)方向の手ぶれ補正は難しいとされています。
なぜなら、カメラの構造上、レンズを回転させると焦点面の位置や光軸がズレてしまうためです。
また、光学補正ユニットが対応できる可動範囲にも限界があり、
ピッチ・ヨー軸のように直接“平行移動”で打ち消すことができません。
そのため、多くの機種ではロール方向の補正は電子的な後処理に頼っています。
最新技術:5軸手ぶれ補正の登場
近年では、一眼レフやミラーレスカメラで採用が進む5軸手ぶれ補正が登場しています。
これは、従来のピッチ・ヨーに加えて、
- ロール(ねじれ)
- X軸シフト(上下平行移動)
- Y軸シフト(左右平行移動)
を組み合わせた高度な制御です。
これにより、縦横だけでなく、前後や回転方向のブレにも対応でき、
手持ち撮影でも三脚に近い安定感を実現しています。
まとめ:縦横に強いのは“角速度で補正しやすい軸”だから
カメラの手ぶれ補正が縦横に強いのは、
- ブレが角速度として検出しやすい(ピッチ・ヨー方向)
- 補正ユニットが直接レンズやセンサーを動かせる
- ロールや前後は構造的に補正が難しい
という、物理構造と制御精度の相性によるものです。
つまり、手ぶれ補正は単なる便利機能ではなく、
角速度・可動軸・光学設計が緻密に連携した“精密制御技術”なのです。
