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豆知識

なぜ駅ホームのベンチは進行方向を向かないことがあるのか?視線誘導と安全域

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駅のホームにあるベンチをよく見ると、線路方向をまっすぐ向いていないことがあります。
中には、進行方向とは逆を向いて設置されているものもあります。
なぜこのような配置になっているのでしょうか?
実はそこには、転落防止・視線誘導・利用者心理の安全性を考慮したデザイン上の理由があるのです。

ホームからの転落防止が第一目的

ホーム上のベンチを線路と平行に、つまり進行方向に向けて配置すると、
乗客が立ち上がった際にそのまま勢いで線路側へ踏み出す危険があります。
特に混雑時や高齢者の利用が多い時間帯では、
立ち上がるときの重心移動が転落事故につながることもあります。

そのため、現在では多くの鉄道会社が「線路に正対しないベンチ配置」を採用。
斜め45度、または完全に背を向ける形で設置することで、
立ち上がった際の動線を自然にホーム中央側へ誘導する安全設計となっているのです。

“視線の流れ”を制御するデザイン

人は座っているとき、視線の方向に無意識の安心感を覚えます。
そのため、線路を真正面に見ると「電車が来た=立ち上がらなきゃ」と反応しやすく、
ホーム端に人が集中してしまう傾向があります。

あえてベンチを斜めに向けることで、
視線がホーム中央や案内表示方向へ向きやすくなり、
「列車接近=立ち上がる」動作をワンテンポ遅らせる効果が生まれます。
これは心理学的な視線誘導による安全対策として知られています。

ホームドアや柱との位置関係

ホームドアが設置されている駅では、
ドアの開閉部分や非常ボタンとの干渉を避ける必要があります。
また、ベンチの背もたれがホームドアの開口部を隠さないように、
あえて斜めまたは後ろ向きに配置されるケースもあります。

さらに、柱の陰や点字ブロックとの距離を確保するため、
**「配置のずらし」や「回転配置」**が求められることも多く、
結果的に進行方向とは異なる向きに設置されるのです。

事故防止ガイドラインの影響

国土交通省の「鉄道駅バリアフリー化ガイドライン(2017年改訂)」では、
ホーム上の休憩設備(ベンチなど)は、
転落防止と避難導線を考慮し、線路方向を避ける配置とすることが望ましい」と明記されています。

この方針をもとに、JRや私鉄各社は2010年代以降、
従来の線路向きベンチを順次斜め・背面向きタイプに改修しています。
とくに都市部では、転落事故のリスク低減を目的に全国的な標準化が進んでいます。

人間工学から見た“安心距離”の確保

背を線路側に向けることで、座っている人と線路の間に物理的な「安心距離」が生まれます。
人の行動範囲(パーソナルスペース)を踏まえると、
背後が開けているよりも壁や構造物に面していたほうが落ち着きを感じやすい
ことも分かっています。
つまり、線路を背にする配置は心理的にも“安全に感じる向き”なのです。

デザインと安全の両立

近年の新型ベンチでは、金属フレームや木調パネルを用いたモジュール式ベンチが主流となり、
ホームデザインとの一体感を保ちながら安全基準を満たすよう工夫されています。
中には、視認性を高めるために座面をオレンジやグレーに色分けする例もあり、
見た目と機能を両立した“公共デザインの進化形”といえます。

まとめ

駅ホームのベンチが進行方向を向かないのは、
立ち上がり動線を線路側へ向けないための安全設計です。
視線を中央へ誘導し、転落リスクを抑え、安心感を高める——
それは見た目のデザインではなく、人の行動を読み取った安全心理工学の成果なのです。

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