なぜ非常用照明は薄暗くても“点灯し続ける”のか?バッテリーと法基準で守る避難安全
 
										映画館やビルの廊下、マンションの共用部などで見かける非常用照明。
停電しても消えず、薄暗くても長時間点灯し続ける姿に疑問を持ったことはありませんか?
実はこの「消えない光」は、バッテリーと法律による厳格な安全基準によって支えられています。
この記事では、非常用照明が薄暗くても点灯し続ける理由を、電気設計と法制度の両面から解説します。
理由①:停電時でも“避難経路を照らす”ために義務付けられている
非常用照明の最大の目的は、停電時に人が安全に避難できるようにすることです。
地震・火災・落雷などで電源が失われても、
- 出口や階段
- 通路や避難口
 が見えなければ、パニックや転倒を招きかねません。
そこで建築基準法では、
「非常用の照明装置を設けなければならない」
と明確に規定されています(建築基準法施行令第126条の5)。
つまり、非常用照明は“最後まで光る命綱”として設置が義務化されているのです。
理由②:通常電源とは別系統の“内蔵バッテリー”で光る
非常用照明は、普段は通常電源(商用電力)から電気を受けて点灯しています。
しかし、停電時には内蔵バッテリー(蓄電池)に自動的に切り替わり、光を維持します。
仕組みとしては:
- 通常時:商用電源で点灯しながらバッテリーを充電
- 停電発生:電圧低下を検知して即座にバッテリー駆動へ切替
- 復電後:自動的に再充電
という流れ。
この切替は0.1秒以下の高速動作で、停電直後でも暗闇にならないように設計されています。
理由③:あえて“薄暗い”のはバッテリーを長持ちさせるため
非常用照明は、通常の照明よりもかなり暗く感じます。
これは設計上の意図で、限られたバッテリー容量で30分〜60分以上の点灯を確保するためです。
法律で定められた最低照度は:
- 通路の床面で 1ルクス以上(月明かり程度)
- 非常階段や避難経路では 平均1ルクス以上
つまり、“最低限見える明るさ”を長く保つことが重視されており、
「明るさよりも持続時間」が優先されているのです。
理由④:建築基準法・消防法で設置が義務化されている
非常用照明の設置義務は、建築基準法と消防法の両方に規定されています。
- 建築基準法施行令 第126条の5
 → 避難経路に非常用照明を設けることを義務化
- 消防法施行規則 第28条の4
 → 非常照明の明るさ・点灯時間・検査基準を規定
これにより、学校・病院・ホテル・マンションなど、
不特定多数が利用する建物には必ず非常用照明を設置しなければなりません。
また、年に1回の消防設備点検で、バッテリー劣化や点灯不良のチェックも義務付けられています。
理由⑤:“点灯し続ける”のはフェイルセーフ(安全優先)設計
非常用照明は、制御回路やスイッチが壊れても「消えない」ように作られています。
これはフェイルセーフ設計と呼ばれる考え方で、
- 故障しても点灯を維持
- 誤作動やノイズでも消灯しない
 ように電気回路が構成されています。
「万が一の時に必ず光る」ことが最優先されているため、
薄暗くても点灯し続けること自体が安全の証なのです。
理由⑥:バッテリーはニッケル水素やリチウム系が主流
非常用照明に使われる蓄電池は、
以前はニカド(Ni-Cd)電池が主流でしたが、現在は:
- ニッケル水素電池(Ni-MH)
- リチウムイオン電池
など、より軽量で高寿命のタイプに置き換わっています。
これらは自己放電が少なく、
10年以上の長期運用でも安定してフル出力を維持できるように設計されています。
理由⑦:照明が“自動点検機能付き”のタイプも増えている
近年では、非常用照明に自己診断機能を持つ製品が増えています。
これは月に1回や半年に1回、自動でバッテリーの充電・放電テストを行い、
異常があればインジケーターで知らせる仕組みです。
これにより、常に「いざという時に点く状態」を保つことができます。
つまり、薄暗く点灯しているのは、内部の自己テストや安全待機状態の場合もあるのです。
理由⑧:避難誘導灯とは“目的と照度が異なる”
非常用照明と混同されやすいのが避難誘導灯(非常口の緑のマーク)です。
両者の違いは以下の通り:
| 種類 | 主な目的 | 明るさ | 設置場所 | 
|---|---|---|---|
| 非常用照明 | 通路・階段を照らす | 1ルクス以上 | 床・天井・壁面 | 
| 誘導灯 | 出口の方向を示す | 明るく視認性重視 | 扉や非常口上部 | 
つまり、非常用照明は“足元の安全確保”、
誘導灯は“出口の方向案内”を担うもので、
両方が揃って初めて安全な避難経路が成立するのです。
まとめ:非常用照明は“消えない光”で命を守る仕組み
非常用照明が薄暗くても点灯し続けるのは、
- 内蔵バッテリーで停電後も照らすため
- 明るさよりも長時間点灯を優先
- 建築基準法・消防法で義務付けられている
- フェイルセーフ構造で“消えない設計”
という理由によるものです。
非常用照明の淡い光は、ただの薄明かりではなく、
「最悪の状況でも人を導くための設計」そのもの。
普段は意識しないその灯りが、いざという時に命をつなぐ光となるのです。

 
																											 
																											 
																											 
																											 
																											