なぜ空港の保安検査トレイは“黒/グレー”が多いのか?X線透過と汚れ隠し
空港の手荷物検査で使うトレイといえば、黒やグレーなどの落ち着いた色が定番です。
カラフルなものにすれば見やすそうなのに、なぜほとんどの空港で同じような色なのでしょうか?
実はその理由は、X線装置での判別性と衛生管理の両立という、空港ならではの実用的な設計にあります。
X線検査で“影を見やすくする”ための色
保安検査では、トレイごとX線装置に通して中身をスキャンします。
このとき重要なのは、トレイ自体がX線を通しやすく、かつ中の物との境界を見やすくすることです。
黒やグレーといった暗めの色は、X線透過画像で反射やノイズが出にくく、輪郭が明瞭に映るという特徴があります。
逆に白や明るい色だと、光の反射や映像のコントラストが変化しやすく、
液晶モニター上での判別精度が下がる可能性があります。
つまり黒やグレーのトレイは、X線検査員がスムーズに中身を判別できる「最適な背景色」なのです。
素材は“X線透過性”を重視した樹脂
保安検査トレイは主にポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)系の樹脂で作られています。
これらは軽くて丈夫なうえ、金属のようにX線を遮断しないため、
トレイ内部の物体を正確にスキャンできる透過性を持っています。
黒やグレーの顔料を少量加えても、X線の通過率にはほとんど影響がなく、
耐久性や視認性を損なわずに使える点でも理想的な素材なのです。
汚れ・傷・変色が目立ちにくい
空港の保安検査トレイは、1日に何百回も使われる消耗品です。
ベルトコンベアに載せたり、靴・金属・荷物を直接入れたりするため、
擦れ跡・油汚れ・靴底の汚れなどがどうしても付着します。
白や淡色ではすぐに汚れが目立ち、不衛生な印象を与えてしまいますが、
黒やグレーなら汚れを目立たせず、清潔な印象を長く維持できます。
これは利用者の心理面でも重要で、清潔感と安心感を保つための工夫なのです。
落ち着いた色は“心理的安心感”にも寄与
空港は多くの人が緊張や不安を感じやすい場所。
そのため、保安検査場の設備や内装には刺激の少ない中間色や無彩色が多く使われます。
黒やグレーのトレイは、視覚的ノイズを抑え、冷静に行動できる環境づくりにも一役買っています。
一方で、一部の空港ではトレイの縁や底面にカラーマークをつけ、
「国内線」「国際線」「優先レーン」などを区別しやすくする工夫も行われています。
メンテナンスとコストの両立
黒・グレー系のトレイは、成形時の着色ムラが目立ちにくく、再生樹脂も使いやすいという製造面での利点もあります。
さらに、同色系なら汚れの程度による差が少ないため、交換時期の判断がしやすく、清掃効率も高いという実務上のメリットがあります。
まとめ
空港の保安検査トレイが黒やグレーなのは、X線透過時の判別性・汚れの目立ちにくさ・心理的安定感をすべて満たすためです。
派手さよりも、使う人と検査員の双方にとって見やすく、安全で衛生的であることが最優先。
何気ない“トレイの色”にも、空港という特殊環境ならではの機能美と設計思想が込められているのです。
