なぜ踏切わたり板は“ゴム+金属”の複合材なのか?絶縁と耐久
電車が通る線路の上を横切る「踏切わたり板」。
見た目は黒っぽいゴム製のようですが、実際にはゴムと金属を組み合わせた複合材でできています。
なぜ単なるゴムや金属ではなく、わざわざこのような構造が採用されているのでしょうか?
そこには、電気の安全性と重量耐久の両立という、鉄道特有の厳しい条件を満たすための設計理由があるのです。
ゴムの役割:絶縁と防振
踏切の線路には電流が流れています。特に信号制御のための「軌道回路」では、レールそのものが通電状態にあります。
このため、わたり板には**人や車が感電しないように電気を遮断する“絶縁性能”**が必要です。
ゴムは電気を通さず、さらに弾性が高いため、列車や車両の振動を吸収する役割も果たします。
つまり、ゴム部分は絶縁・防振・防滑という3つの安全性能を兼ね備えたクッション材なのです。
金属の役割:強度と形状保持
しかし、ゴムだけでは重量に耐えられません。
列車が踏切を通過するとき、1両あたり数十トンの荷重がかかります。
そのため、内部には鉄骨や鋼板などの金属補強材が組み込まれ、わたり板全体の形を支えています。
この金属フレームがあることで、わたり板が車両やトラックの通行にも耐えられ、長期間の使用に耐える高い剛性を確保できるのです。
また、金属部分には防錆処理が施され、ゴムとの接合面には特殊な接着技術が使われています。
複合材にすることで得られるメリット
ゴムと金属を組み合わせることで、以下のような複合的な性能が得られます。
- 電気的に安全:ゴムが通電を防ぎ、軌道回路を誤作動させない
- 機械的に強い:金属が構造を保持し、列車や車の荷重に耐える
- 静粛性が高い:ゴムが振動や衝撃音を吸収し、通行時の騒音を低減
- 交換しやすい:モジュール構造により、損傷部分だけを取り外せる
こうした性質によって、わたり板は安全・耐久・メンテナンス性のすべてを両立できるのです。
近年はリサイクルゴムやFRPも活用
最近では、廃タイヤなどを再利用したリサイクルゴム製踏切板や、**FRP(繊維強化プラスチック)**を組み合わせたタイプも登場しています。
これらは従来より軽量で設置が容易なうえ、耐候性にも優れており、環境負荷の低減にもつながっています。
まとめ
踏切のわたり板が「ゴム+金属」の複合材でできているのは、電気的な絶縁性と構造的な強度を同時に満たすためです。
ゴムが電気と振動を遮断し、金属が重荷重に耐える——この組み合わせこそ、鉄道の安全と耐久性を支える最適解。
何気なく通る踏切の足元にも、電気工学と材料設計の知恵がしっかりと息づいているのです。
