なぜ印鑑マットは“柔らかい緑”が多いのか?インキの視認と沈み込み
役所や会社で印鑑を押すとき、下に敷かれている柔らかい緑色のマット。
なぜ黒でも赤でもなく、ほとんどがこの「緑」なのでしょうか?
実は、印鑑マットの色と柔らかさには、正確で美しい印影を残すための科学的な理由があるのです。
緑色は“印影の視認性”が最も高い
印鑑マットが緑色である最大の理由は、朱肉の赤い色が最も見やすい背景色だからです。
赤と緑は補色関係にあり、対比がはっきり出るため、押印時に印影の濃淡やズレが一目で確認できるのです。
黒いマットでは印影が沈み込み、白いマットでは汚れが目立つため、
視認性と清潔感を両立できる“中間色の緑”が最も実用的という結論に至っています。
また、緑色は心理的にも「落ち着き」「安定」を与える色であり、
公的文書や契約書など慎重な動作を伴う場面に適した色彩として選ばれています。
柔らかさは“紙と印面の密着”を助ける
印鑑マットは適度な弾力を持ち、押したときにわずかに沈み込む構造になっています。
これは、印面のわずかな凹凸を吸収し、紙と印鑑の間に均一な圧力を伝えるためです。
もし硬い机の上で押印すると、
力の入り方にムラができて「かすれ」や「にじみ」が発生しやすくなります。
一方で柔らかすぎると印面が沈み込みすぎて、印影がぼやけてしまうため、
印鑑マットはおおよそ硬度20〜30°(ゴム硬度スケール)という絶妙な柔らかさに調整されています。
弾性体が“再現性の高い印影”をつくる
朱肉を含んだ印面はわずかに凹凸があり、押印時の圧力分布で濃淡が変わります。
印鑑マットの弾性体(多くはNBRゴムやウレタンゴム)は、
初期接触から離型までの圧力変化を一定に保つ働きをします。
これにより、同じ力で押しても印影がブレにくく、再現性の高い印影が得られるのです。
緑色の“汚れ耐性”と長寿命性
朱肉は油分を含むため、使用を重ねるうちにマット表面にシミや汚れがつきやすくなります。
緑色は赤や茶系の汚れが目立ちにくい中間色であり、
長期間使っても清潔に見えるというメンテナンス上の利点があります。
また、黒マットに比べて熱吸収が少なく、
直射日光下でもゴムの劣化や変色を防ぎやすいという点でも合理的です。
“緑+柔軟”の組み合わせが生まれた背景
1970年代以降、事務用品としての印鑑マットが普及する中で、
多くのメーカーが視認性・耐久性・コストを比較検討した結果、
「緑色のゴム系マット」が業界標準となりました。
現在もほとんどの公的機関や企業がこの色を採用しており、
いわば「正確な押印=緑マット」という視覚的信頼性が社会的に定着しています。
まとめ
印鑑マットが柔らかく緑色なのは、
赤い印影を最も見やすくし、均一な圧力で正確に押せるようにするためです。
視認性・機能性・耐久性のすべてを兼ね備えた結果、
この“柔らかい緑”が、今日の押印文化を支える最適解のデザインとなっているのです。
