なぜ家電の電源マークは“〇と|”なのか?電気回路記号の国際統一
家電やパソコンの電源ボタンには、必ずといっていいほど**「〇」と「|」**のマークが描かれています。
「電源オン/オフ」とはわかっていても、なぜこの形なのかを意識したことはあるでしょうか?
実はこのシンプルな記号には、電気回路の仕組みと国際的な統一ルールが関係しているのです。
「|」と「〇」は“電気の状態”を示す記号
電源マークに使われている「|」と「〇」には、もともと明確な意味があります。
- 「|」= 電流が流れている(回路が閉じている)
- 「〇」= 電流が流れていない(回路が開いている)
つまり、「|」は ON(通電)、「〇」は OFF(遮断) を表しています。
これは電気回路図で使われるスイッチ記号を単純化したもので、
「電気が通る・止まる」という状態を誰でも直感的に理解できる形にしたのです。
電気回路の“開閉”を図で表したのが始まり
スイッチを回路図で描くと、ONは接点がつながった状態、OFFは離れた状態を示します。
これを視覚的に抽象化したとき、
- 接点がつながっている → 直線(|)
- 接点が離れている → 円(〇)
という形で表すようになりました。
つまり、〇と|の組み合わせは、電気回路の「開」と「閉」そのものを象徴しているのです。
国際規格IECによる統一
この記号が世界的に統一されたのは、1950年代の**IEC(国際電気標準会議)**による定義がきっかけです。
家電や電子機器が国際的に流通するようになると、
各国で「ON」「OFF」の表記や記号がバラバラで混乱を招いていました。
そこでIECでは、次のように統一を決定しました。
- 「|」 … 電源が入っている(Power ON)
- 「〇」 … 電源が切れている(Power OFF)
- 「|と〇を組み合わせた記号」 … 待機・スタンバイ状態(Power Standby)
このルールは IEC 60417(機器用図記号)に正式に登録され、
以降、世界中の家電メーカーが同じデザインを採用するようになりました。
“〇と|の組み合わせ”はスタンバイの意味
近年のテレビやパソコンに多い「◯の中に|がある」電源マークは、
完全にOFFではなく、**待機状態(スタンバイ)**を表します。
これは「電気は通っていないが、待機電力で制御回路が生きている」状態。
ユーザーが再びボタンを押すと、すぐに起動できる仕組みです。
つまり、「〇の中に|」という記号は、
**ONとOFFの中間=“すぐ起動できるOFF”**という現代的な電源概念を象徴しています。
なぜ“言葉ではなく記号”なのか
電源マークが文字ではなく記号で統一された理由は、国際化にあります。
“ON/OFF”は英語圏では通じても、他の言語では意味が異なります。
記号なら、言語や文化を問わず誰にでも伝わる。
そのため、家電や産業機器の世界では、非言語的デザインが重視されているのです。
「I/O」表記との関係
一部の機器では「I」と「O」で電源を示す場合がありますが、
これも実は同じルーツ。
「I=通電」「O=遮断」を意味する電気記号が、
アルファベットに似ていたことから自然に置き換えられました。
つまり、「I/O」と「|/〇」は同義の記号であり、
工業デザイン的にはどちらもIEC規格の派生表現なのです。
まとめ:〇と|は“世界共通の電気の言葉”
電源マークが「〇と|」で構成されている理由を整理すると、次の通りです。
- 「|」=通電、「〇」=遮断を意味する電気回路記号が由来
- IEC(国際電気標準会議)によって世界共通ルールとして制定された
- 「〇の中に|」はスタンバイ=待機状態を表す
- 言語に依存しない普遍的デザインとして採用された
つまり、この記号は単なるデザインではなく、世界中の電気機器が共有する“共通言語”。
日常の中で何気なく押している電源ボタンには、
電気の流れを誰にでも理解させるための国際的な約束事が込められているのです。
