なぜショッピングモールの通路は“ゆるいカーブ”が多いのか?回遊率の心理設計
ショッピングモールを歩いていると、直線ではなくゆるやかに曲がった通路が多いことに気づきます。見通しが悪いようでいて、なぜか自然と歩き進めてしまう——。
実はそのカーブには、人の行動心理と購買行動を誘導するための緻密な設計が隠されているのです。
直線よりも「カーブ」が人を引きつける
人は本能的に、先が見えすぎる道よりも「少し先が気になる」道に引き寄せられます。
通路をゆるくカーブさせることで、視界の先に“まだ見ぬエリア”を想像させる効果が生まれ、自然と歩みを進めてしまうのです。
これは「探索欲求」と呼ばれる心理効果で、テーマパークや美術館などでも同様の手法が使われています。
直線の通路だと先が一目で見えてしまい、心理的に「目的地までの距離」を意識してしまいます。
一方でゆるいカーブなら、距離を感じさせず、**“なんとなく歩きたくなる空間”**をつくることができます。
視線誘導で店舗への関心を高める
ゆるいカーブは、視線の動きにも影響します。
人の視界は正面よりもわずかに斜め方向に敏感で、カーブの内側に自然と目が向きます。
そのため、モール設計ではカーブの内側に人気店や新店舗を配置することが多く、無意識のうちに立ち寄りたくなる視線誘導が仕掛けられているのです。
また、通路が緩やかに曲がることで、店のファサード(正面デザイン)が少しずつ視界に入ってくるようになり、「見つけた感」を演出する心理効果もあります。
滞留と回遊を両立する空間設計
ショッピングモールの目的は、1店舗にとどまらせることではなく、全体を回遊してもらうこと。
ゆるいカーブの通路は、進行方向を変えながらも人の流れを途切れさせず、滞留と移動のリズムを両立させます。
さらに、角度のゆるいカーブは人の歩行速度を自然に落とすため、ウィンドウショッピングがしやすくなり、購買率も上がるというデータがあります。
空間全体の「安心感」にも寄与
心理的な理由だけでなく、空間設計上の安全性にも配慮されています。
直線的な通路では遠くの人や光の反射が強調されやすく、無機質で冷たい印象を与えますが、カーブを持たせることで視界に柔らかさと奥行きが生まれ、居心地の良い空間になります。
この「圧迫感のないデザイン」は、長時間の滞在を促す効果もあるのです。
まとめ
ショッピングモールの通路がゆるいカーブになっているのは、探索欲求・視線誘導・空間心理を巧みに利用した設計です。
人は無意識のうちに「少し先を見たい」と感じ、自然に回遊してしまう——その心理を利用して、モール全体の滞在時間と購買率を高めているのです。
何気なく歩くその一歩も、実は緻密に計算された“心理設計”の上にあるのです。
