なぜ領収書は“但し書き”を書くのか?会計と税務の実務的な理由を解説
お店や会社で領収書を受け取ると、たいてい「但し〇〇として」などと記載されています。
一見形式的に思えるこの“但し書き”ですが、実は会計処理や税務上のトラブルを防ぐために重要な意味を持っています。なぜ但し書きを書く必要があるのか、その背景を実務の観点から解説します。
但し書きとは?領収書の中で果たす役割
「但し書き(ただしがき)」とは、領収書の用途や支払いの内容を明示するための記載欄のことです。
たとえば「但し 交際費として」「但し 備品代として」などと書かれている部分がそれにあたります。
この欄の目的は、支払いの性質を明確にすることです。
同じ金額でも「接待のための食事代」と「社員への弁当代」では、会計上の勘定科目も税務上の扱いも変わります。
つまり、但し書きは「このお金を何のために使ったか」を明確にする“証拠”になるのです。
会計上の観点:仕訳や経費区分を明確にする
会計処理において領収書の但し書きは、仕訳を正しく行うための根拠資料となります。
会社の経理担当者は、但し書きに基づいて「どの勘定科目に振り分けるか」を判断します。
たとえば、次のような違いがあります。
| 支払い内容 | 但し書きの例 | 勘定科目 |
|---|---|---|
| 社員の出張時の交通費 | 但し 交通費として | 旅費交通費 |
| 顧客との会食代 | 但し 接待飲食費として | 交際費 |
| コピー用紙の購入 | 但し 消耗品費として | 消耗品費 |
もし但し書きが空欄のままだと、経理担当者が内容を確認できず、仕訳ミスや経費の誤分類が起きやすくなります。
正しい会計処理のために、但し書きの記載は欠かせません。
税務上の観点:経費として認められるための証拠
税務署の視点から見ると、但し書きは経費の妥当性を証明する書類の一部です。
確定申告や法人税申告の際に、税務署が「本当に事業に関係する支出なのか?」を判断する材料になります。
たとえば、以下のようなケースでは但し書きの有無が大きな差になります。
- 「但し 接待飲食費として」と書かれていれば → 交際費として認められる可能性が高い
- 何も書かれていなければ → 個人的な支出と見なされ、経費否認される恐れも
つまり、但し書きは“経費の証拠力”を高めるための重要な要素なのです。
「お品代として」と書くのは万能ではない
コンビニや飲食店などでは、「但し お品代として」と一律に記載されることが多いですが、
これは税務的には抽象的すぎて内容が不明確と判断される場合があります。
特に法人取引や高額支出の場合には、
「備品代として」「広告宣伝費として」「会議用飲食費として」など、具体的な内容を記す方が望ましいとされています。
経費の内容を後から説明できるように、領収書にはなるべく詳細な但し書きを書いてもらうのが実務的なポイントです。
受け取る側・発行する側それぞれの注意点
受け取る側(経理・事業者)は、但し書きが空欄の場合、必ず自分で内容を補記しておきましょう。
一方で、発行する側(店舗・販売者)は、後から書き換えられないように注意が必要です。
無記入や修正液での書き換えは、証拠力を損ねるリスクがあります。
領収書の真正性を保つためには、発行時点で但し書きを正確に記入し、
後から内容が変えられないよう、複写式・控え付きの領収書を使用するのが一般的です。
まとめ:但し書きは「経費の説明書」
領収書の但し書きは、単なる形式的な一文ではなく、
- 会計上の仕訳を正しく行うための情報
- 税務上、経費を正当に認めてもらうための証拠
という2つの実務的な役割を持っています。
日々の経理業務では見過ごされがちな但し書きですが、
実は企業や個人事業主の“お金の信頼性”を支える大切な仕組みなのです。
