なぜマンションの非常階段は金網状なのか?風荷重と煙抜き
マンションの外側にある非常階段をよく見ると、床や側面が金網(メッシュ)状になっています。
一見すると頼りなく見えるこの構造ですが、実は安全性と耐久性を両立させるための合理的設計です。
なぜわざわざ金属の網目にしているのでしょうか?
その理由には、風の力と火災時の煙対策という2つの重要な要素が関係しています。
風を通して“風圧”を逃がす構造
マンションの非常階段は、建物の外側に張り出して設置されていることが多く、
台風や強風の際には大きな風荷重(ふうかじゅう)を受けます。
もし階段や壁が完全な板状だった場合、
風をまともに受けて構造全体が揺れたり、最悪の場合は変形・破損してしまう危険があります。
金網状にすることで、風が通り抜け、
階段全体にかかる圧力を大幅に軽減できます。
この「通風設計」により、
高層階でも風速30mを超えるような強風に耐えられる構造強度が保たれているのです。
火災時の“煙の逃げ道”を確保
非常階段のもう一つの目的は、火災発生時の避難経路を確保すること。
火事の際に最も危険なのは、炎よりも煙による一酸化炭素中毒や視界不良です。
もし階段が密閉された構造だと、煙がこもり、避難中に呼吸困難に陥る恐れがあります。
金網状の階段なら、煙が上昇しても外気に拡散しやすく、
自然な「煙抜き効果」が働きます。
これにより、避難者が安全に下まで降りられる換気性の高い通路を保てるのです。
軽量で錆びにくい“鉄骨メッシュ構造”
非常階段の多くは溶融亜鉛メッキ鋼材などの金属で作られています。
金網状にすることで板材よりも軽量化でき、
建物にかかる荷重を抑えつつ高い強度を確保できます。
また、メッシュ構造は水はけが良く、
雨や結露が残らないため腐食しにくいというメリットもあります。
実際、雨がたまらないことで冬季の凍結防止にも効果があり、
滑りにくさや耐久性の面でも優れた構造なのです。
掃除・点検のしやすさも利点
金網状の床は、埃や水がたまらず、
清掃や点検が容易という実用面のメリットもあります。
また、階段下が透けて見えることで、
落下物や異常をすぐに発見でき、管理の安全性も高まります。
視覚的な“閉塞感の軽減”
心理的な面でも、金網構造は効果的です。
密閉された非常階段は暗く、圧迫感が強くなりがちですが、
外の光と風を取り入れることで開放感が生まれ、恐怖感を軽減します。
特に高層マンションでは、避難時のパニックを防ぐうえで重要な要素となります。
まとめ
マンションの非常階段が金網状なのは、
強風への耐性・火災時の煙抜き・軽量化・防錆・心理的安全性など、
多くの機能を一度に満たすための結果です。
ただの「見た目」ではなく、
そこには建築基準と防災工学が融合した実用的デザインが息づいています。
金網の隙間には、私たちの安全を守るための空気と光の通り道が隠されているのです。
