なぜ握手は右手が基本なのか?武器と警戒の歴史が生んだ“信頼のジェスチャー”
 
										ビジネスや再会の場で当たり前のように行われる「握手」。
世界中の多くの国で右手を差し出すのが常識とされています。
しかし、なぜ左手ではなく右手なのか?
その理由は、武器と警戒の歴史に深く根ざしています。
古代の握手は“敵意がない”ことの証明だった
握手の起源は、古代ギリシャやローマ時代にまでさかのぼります。
当時、右手は剣や槍などの武器を持つ手でした。
そのため、右手を差し出して相手に見せる行為は、
「私は武器を持っていない。敵意はない」
という平和と信頼のサインだったのです。
特に戦士や外交官が会う場面では、
握手は「互いに安全であることを確認する儀式」として重要視されました。
“右利き社会”だったからこそ定着した
歴史的に、人類の大多数は右利き。
剣や盾、筆記具、工具など、ほとんどが右手で操作する文化の中で発展してきました。
そのため、右手を差し出す=「最も支配的な手を相手に委ねる」という行為は、
最大限の信頼を示すしぐさだったのです。
もし左手を差し出したら――
「右手に武器を隠しているのでは?」と疑われる可能性があり、
かえって敵意を招いてしまうこともありました。
宗教・儀礼の中でも“右手”は特別な意味を持つ
古今東西で、「右手」は正義・力・祝福の象徴として扱われてきました。
- キリスト教では、神の右手が「正義と恩寵」の象徴
- 古代ローマでは、右手を掲げて誓いを立てる「デクストラ・フィデス(右手の信義)」が慣習
- 日本でも「右手=主(おも)」「左手=従(じゅう)」という陰陽思想が存在
このように、右手は古くから神聖で信頼を表す手とされてきたのです。
握手が右手で行われるのは、文化的にも自然な流れでした。
中世ヨーロッパでは“武具文化”との関係も
中世の騎士たちは右腰に剣を差し、右手で抜刀しました。
そのため、相手に近づくときに右手を見せるのは
「私は剣を抜かない」という意思表示。
さらに、鎧や手袋を脱ぎ、素手で右手を握る行為は
「あなたを敵ではなく仲間として扱う」
という友情と誓いの証として重んじられました。
この騎士文化がヨーロッパ全土に広まり、
のちに握手が外交儀礼や契約の締結に用いられるようになります。
左手で握手する文化もある?
右手が基本とはいえ、例外も存在します。
たとえば、ボーイスカウトでは「左手で握手する」伝統があります。
これは創設者ベーデン=パウエルが、
アフリカの戦士から「敵に背中を預けるほどの信頼」を示す挨拶として学んだもの。
左手(盾を持つ手)を差し出すのは、
「防御を捨て、完全に信頼する」という特別な意味を持つのです。
ただし、一般社会では依然として右手が主流であり、
左手握手は特別な文脈に限定されるのが通例です。
近代以降、“ビジネスの礼儀”として世界標準に
19世紀以降、産業革命とともに握手は
ビジネス・政治・外交の場で「対等な関係を示す礼儀」として定着しました。
特に英米文化圏では、
契約や交渉の最後に交わす「ハンドシェイク」が
“言葉よりも重い約束”
とされるほど、信頼と誠実の象徴となったのです。
この慣習が国際化とともに世界中に広まり、
現在では文化の違いを超えたグローバルな挨拶となりました。
まとめ:右手の握手は“信頼の証”として受け継がれた文化
握手が右手で行われるのは、
- 右手が武器を持つ手であり、「敵意がない」と示すため
- 右利き社会で、最も信頼を示す手だから
- 宗教・儀式でも右手が「正義と誠実」の象徴だったから
という文化・歴史・象徴の重なりによるものです。
つまり、右手での握手は単なる挨拶ではなく、
「私はあなたを信じます」――という人類共通のメッセージなのです。

 
																											 
																											 
																											 
																											 
																											